『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第26話

『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第26話

 

それから数日、チャイルド移送の巡洋艦はアストラギウス銀河トロックフーブ宙域を黙々と進んだ。

星の海の航海はある意味退屈だ。波もなければ風もない。ただ漆黒の空間を淡々と進むのみだ。だから楽しみの多くを食事が占める。それも第三食、つまりディナーに集約される。

「ワインも料理も悪くはない。悪くはないが…そろそろローテーションというか…メニューにひと工夫欲しい所だな。でなければ、そのなんですなあ……」

少佐がグラスを傾けながら連日の無聊を託つた。

「私は言うことありませんな。私の日常にこんな平穏が訪れるとは、何者かに感謝したい気持ちですよ。ふん、ルーにかな、ルーに感謝するか」

ボブゥーは屈託なくルーに向かってグラスを掲げた。と!

艦内の照明が突然落ち、凶暴な音楽が闇を震わし空間を満たした。やがて艦内のモニターというモニターに灯が入り、そこから激しい戦闘映像があふれ出した。それは、戦闘というよりはある意味大虐殺と言える一方的なもので、とある軍団が民間人も戦闘員も老若男女の区別もなく、撃ち砕き踏みにじり引き裂く、血と炎の破壊と殺戮の大饗宴だった。

「何だこれは‼」

「酷い!」

「あの赤い肩を見ろ!」

「レッドショルダーだ‼」

「吸血部隊だ!」

艦内のあちこちに声が上がった。

やがて鳴り響いていた『吸血部隊のマーチ』が鳴りやむと映像も消え闇の中に人工音声と思われる声が語り掛けた。

「キリコ……以前のように動揺をしないな……マーチを聞き自分の所業を見て青ざめ泣き喚いたお前の姿が昨日のように懐かしい……」

キリコが闇に応えた。

「俺も大人になった」

「うむ……それでこそ私の後継者の養育を担ってもらうにふさわしい」

「さあ、それはどうかな」

「……それでは後継者の成長を見せてもらおう」

艦内に灯りが戻ると同時に、非常を告げる警報音が鳴り響いた。

「何だ! 何事だ⁉」

警報音だけで次第のアナウンスの無いのにいらだった少佐が、

「ブリッジで確かめる」

と駆け出した。

ブリッジは緊張に包まれていた。全スタッフが各々の持ち場の計器類に目と耳と全神経を傾注していた。

「何があったのですか?」

少佐が艦長に聞いた。

「それが……」

艦長が質問に答えようとしたとき、

「謎の浮遊物体の映像出ます!」

スタッフの声と同時にブリッジのメインモニターにそれが映った。

「こ、これは⁉」

暗黒の宇宙に無数の鈍く輝く黒褐色の円柱が浮遊していた。

「円柱の長さおよそ30メートルから35メートル、直径7,8メートル」

「質量は同量の鉄材に匹敵」

「我が艦はこの謎の物体の只中におります」

「なぜ今まで気づかなかったんだ?」

艦長が呻くように言った。

「先ほどのマーチと映像出現の間に…」

スタッフの報告を遮るように人工音声が艦内に流れた。

「私が君らをここに導いた」

「お、お前は誰だ?」

「私はアストラギウス銀河を統べるもの…」

「ワ、ワイズマン⁉」

「……あるいは神とも……」

「そ、その神が何故に?」

「後継者の成長を見たい」

「後継者?」

「そなたたちがチャイルドと呼ぶ少年だ。そこにいる」

声に促されて艦長が周囲に視線を走らせた。

「あっ」

ブリッジ後方にルーがキリコと共に立っていた。

「お前たちの操艦ではこのフローターベルトから出られない。その子の能力が見たい。操艦を任せるのだ」

「艦をこの少年に任せろと言うのか?」

「そうだ。お前たちの操艦技術ではあと5分とこの船はもたない。あのフローターに接触して宇宙に全てを散らすだけだ」

「チャイルドなら抜けられるというのか?」

「それは分からない。私もそれを期待しているが、期待通りに成長していなければそれまでのことだ」

と言うと、人工音声はそのまま途絶えた。

「ば、馬鹿な!」

混乱のあまり艦長は言葉を失った。そんな艦長をしり目にキリコがブリッジのスタッフに聞いた。

「奴の言う通り無理なのか?」

「フローターが密すぎる!」

「避けようにも距離がない!」

スタッフは口々に困難を訴えた。――キリコは艦長を一瞥し、

「彼に任せよう」

と告げて、ルーを呼んだ。

「ルー。ここを抜けてみろ」

ルーは無言で頷くと、素早くブリッジの計器盤を駆け巡った。時折スタッフに確認を取ると、やがて、メインモニターに正対し声を張った。

「操舵号令!」

ややあって緊張した声が復唱された。

「ブリッジ、操舵号令!」

艦内の空気が一瞬にしてピリンと締まるのが解った。

「反速前進!」

「反速前進!」

ルーの発令が順次艦内部署に送られる。

「右舵一杯!」

「右舵一杯!」

モニター一杯に迫っていた黒褐色の円柱が際どく左へとすれすれに流れていく、

「左舷機関停止!」

「左舷機関停止!」

「右舷機関全開!」

「右舷…」

「復唱無用! 即動許可!」

ルーは艦内慣例より操船のスピードを優先した。

「舵中央! 両舷全速前進!」

ルーは指令を連発しながら計器盤から計器盤へと走り回った。ブリッジにはルーの声とその質問に答えるスタッフの声のみが響きわたり、少佐も艦長も、キリコさえも艦内の突起物に掴まり声なく左右のうねりに耐え、メインモニターに次々に迫り来る黒褐色の金属柱を見つめ続けることしかできなかった。

 

続く

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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