『キャプテン・アース』デザインの現場 高倉武史(その3)
『昔は飛ばない飛行機を描くと業界で怒られましたからね』
インタビュー:電撃ホビーマガジン編集部(2014/5/30)
※インタビューで語られる画稿は電撃ホビーマガジン2014年8月号に掲載されています。
―転じて機動列車は大きく変形してカタパルトになる大胆なメカになっています。
コヤマ:五十嵐監督が最初に列車が変形してカタパルトになる、と言った時に「やれるのか!?」と思ったんですけれども(笑)。高倉さんがいたからこの機動列車も現実的なリアルさを持って登場させられたと思います。鉄道を出したい、というアイデアを出した榎戸さんも「高倉さんがいるなら絶対いける!」と太鼓判でしたし(笑)。
高倉:この列車は五十嵐監督のビジョンを形にしています。射出カタパルトのギミックに関しては、もう完全にぶっ飛んだ内容になっちゃってたんで、それは変えようがない。となれば、それ以外の部分でいかに実存のリアルに近いものにまとめられるか、ということに集中しました。
コヤマ:言ってしまえば、高倉さんは今回は“鉄道顧問”みたいなものでした(笑)。五十嵐監督も鉄道は好きなんですが、スタッフの中で恐らく高倉さんが一番詳しいので、「この車輌は何が良いのでしょうか?」と指導を仰いで、「じゃあそれお願いします」という感じで車輌の種類が決まったんですよね。
高倉:僕の中でこの機動列車はスケールモデルの鉄道模型で再現できるのを目標にデザインしています。例えば機動列車の模型を作りたい、とお話があったら、「ここはこの部品でお願いします」というやりとりができるように。この編成には全てベースとなった車輌があります。もっとも突飛なカタパルト搭載車輌も外観は実際に存在する車輌です。
―先頭の動力車の車種選択というのも、高倉さんが?
高倉:先頭の車輌は五十嵐監督がこれがいい、とずっとおっしゃってたんです。貨物でよく見るタイプのすごく有名な車輌ですね。
コヤマ:作品の選択肢としては、すべて描き下ろしの車輌にするという方法もあったと思うんです。ただ、五十嵐監督が求めている演出が、ロボットを射出したり、動力部の機関がグルグル回転したりと派手だったので、外見をオリジナルにしてしまうと、まるっきりウソっぱちな印象になる危険性もあって……。
高倉:実際に脚本の段階で榎戸洋司さんと五十嵐監督とお話をした時に、どういう方向で車輌を作りましょうか、完全オリジナルでいきましょうか、と提案もしました。でも、先ほど言ったように既存の車輌でやりたいということだったので、じゃあこの車種が良いんじゃないでしょうか、というのをいくつか提案して、その中から決定しました。
―実在するラインを大事にしてデザインされたメカ美術ですが、レーゲンボーゲンはオリジナル性の強いものになっていますね。
コヤマ:すでに本編を観て頂いた方には分かっていただけると思いますが、お話の中でも重要な部分で登場しています。嵐テッペイのネビュラエンジンをグッと盛り上げていくシーンを彩るメカなんです。アースエンジン・オーディナリーを盛り上げるためにペガサス号と射場を用意したのと同じで、レーゲンボーゲンはネビュラエンジン・オーディナリーを射出する射場みたいなもの。だから、ただの大型輸送機じゃない、「何かが始まるぞ!」という高揚感のあるデザインである必要があったんです。
高倉:懸吊した重いものを高々度で射出する輸送機というのはいくつか前例はあるのですが、この作品に合わせた機能や大きさの機体がないこともあって独自にデザインすることになりました。五十嵐監督のイメージは宇宙旅行者向けの「スペースシップ・ツー」というスペースプレーンだったのですが、「スペースシップ・ツー」の懸吊する宇宙船はそんなに重くないんです。10メートル級のロボットを運ぶとなるとあのままでは使えないので、五十嵐監督のイメージを取り入れながらデザインされたのがレーゲンボーゲンなんです。形のモチーフは、「スペースシップ・ツー」と日本のSTOL研究機「飛鳥」です。STOL機能を有した輸送機をGlobeが作るとこうなるのではないか、と。
コヤマ:射場やレーゲンボーゲンのカラーリングは高倉さんのアイデア稿があるんですが、それがまた良いんですよ。僕は完全にトリコロール担当なんですが(笑)、高倉さんのカラーリングはメカ好きにはたまらないカラーリングなんですよね。
高倉:もうシャトルそのものの塗装で良いでしょう、ということで。でも実験機や特別機らしく明るい色をワンポイント入れて目立たせています。もう少し未来っぽいカラーリングも五十嵐監督には見せたんですけど、どっちがいいですか、と聞いたらこちらがいい、と。シャトルの中に入っているネビュラエンジン・オーディナリーが未来のデザインなので、もっさりしている方がかえって面白いという判断でした。最近のアニメは登場する飛行機も数が多い上に、それぞれのデザインも面白いので、レーゲンボーゲンのデザインもハッタリが効くものを作っておかないとマズイかな、という狙いもありましたね。
―リアリティと主張するシルエットの両立となると大変ですね。
高倉:昔は飛ばない飛行機を描くと業界で怒られましたからね。「あれは飛ばないだろう」とか、「この羽はいらないだろう」とか言われたり。最近はそういう理屈よりも目立つデザインの方が喜ばれる傾向にありますが、僕はその怒られる世代なものですから。無意識に目立ちつつも怒られないようなバランスを取ってしまいますね(笑)。
コヤマ:怒られる世代(笑)。それなら僕は諦められる世代ですね。コイツはもうしょうがないな、と……(笑)。
(7月21日につづく 3/4)
<関連情報>
その2:『Globeは研究室、マクベスは軍事施設、といった違いが出せるように考えています』
その3:『昔は飛ばない飛行機を描くと業界で怒られてましたからね』
その4:『誰が描いても同じように見えるシンプルでカッコ良いものを考えるようにしています』
(C)BONES/キャプテン・アース製作委員会・MBS