アイデアを具現化し、独自のアレンジで高密度な原型として作り出す原型師ならでは想像力と手法を針桐双一さんに聞く!【「MINAMOTO」プロジェクトインタビュー③】
原型師の可能性と、その世界をより多くの人に知ってもらうために実施されたコラボレーションプロジェクト「MINAMOTO」。『「軌跡」と「交錯」』をテーマとして今回のコラボレーションにおいて、原型師は何を考え、表現していったのか。全3回でお送りするインタビューの第3回では、針桐双一さんに原型師としてのオリジナリティーとその創造という視点についてお話を伺いました。
プロフィール
針桐双一(原型師)
ガレージキットディーラー「G-Rug」の代表であるフリー原型師・造形作家。美少女キャラクターだけでなく、クリーチャー系の造形なども手掛け、2022年夏には模型文化ライター・あさのまさひこ氏とワンダーフェスティバル実行委員会が共同展開する「ワンダーショウケース」第40期アーティストにも選出。
ふーみ(イラストレーター)
『ホロライブ』角巻わためのキャラクターデザインや『新米錬金術師の店舗経営』の挿絵などを担当するイラストレーター。
実際にプリントして組み上げた際に、フィギュアとして成り立つような形状にはしようという縛りは設けた
――今回のプロジェクトについて最初にお聞きになった際にどういった印象を持たれましたか?
針桐:かなり珍しいプロジェクトというのが率直な感想でした。絵師さんが描かれたものを原型師が作るというのがこれまでの流れで、原型師が独自にデザインと制作を行うというのは、仕事としてはレアだと思いました。原型師がイチからデザインを起こそうとしたら、今までは個人活動として自発的に制作してイベントに持ち込むしかなかったなかで、こういうプロジェクトは非常に貴重な機会で、そこにお呼びいただけたのは非常に嬉しかったですね。
――今回のテーマは『「軌跡」と「交錯」』ですが、それを聞いたときの感想をお聞かせください。
針桐:他の原型師さんの作られたものは、『「軌跡」と「交錯」』からテーマを膨らませていかれたなという印象を受けました。自分の場合は、文字通りに捉えて幾何学的な直線の交わりをスタートとして、そこから生まれたものが実像を結んでいくようなものをイメージしました。最初は光の軌跡が何本も出ていて、それが交わって人の形に像を結ぶというようなコンセプトで考えていましたが、視覚的にうまくまとまらなくて、最終的に前半のターンで制作したような糸が交錯して人の像を作り上げるというものになりました。
――この前半のターンの原型だと、今回のテーマを視覚的にわかり易く作られたという印象を受けます。
針桐:曽我さんとKneadさんは商業原型でも活躍されている方なので、多分突飛なことをやるのは自分だなと思いました。なので、前半のターン、後半のターンのそれぞれで少し変わった形状になることを考えて制作しました。それでもCGだけではなくて、実際にプリントして組み上げた際に、フィギュアとして成り立つような形状にはしようという縛りのようなものは設けました。
――この原型を今回の絵師さんであるふーみさんがイラストとして仕上げられたわけですが、それをご覧になった感想をお教えください。
針桐:完全に自分の絵柄というか世界観に落とし込まれていて、さすがだな、と感じました。特にカラーリングについては、原型のデータをお渡ししたときはグレー単色だったので、どんな感じで仕上げられるかは気になっていました。仕上がりを見て非常に素敵なカラーリングになっていたのには驚きました。これは自分では選べなかったいい色だと思います。自分だと、濃いブラウン系やブラック系の色にしたと思いますが、それとは真逆のカラーリングは新鮮でした。
――カラーリング以外に注目された点はありますでしょうか?
針桐:衣装のデザインですね。特に原型では衣装にはほとんど装飾のない状態だったので、ディテールなどは絵師さんがどういう風に仕上げられるかも楽しみにしていました。結果、ウエストの部分の花や袖などのデザインに、絵師さんらしさが盛り込まれていた点がさすがだな、と思いました。
キャラクターデザインとしてはもう十分な情報量のありイラストから、造形に繋がるイメージを作り出していく
――次に第2ターンの話を伺いたいのですが、ふーみさんのイラストをご覧になった際の感想を聞かせていただけますでしょうか。
針桐:イラストについては、キャラクターデザインとしてはもう十分な情報量があるな、というのが第一印象でした。また、「旅人の少女 Journey」というタイトルで、彼女の手には鳥が留まっているというシチュエーションから渡り鳥を想像して造形を進めました。渡り鳥の群れと一緒に少女が空に溶けていくようなイメージですね。
――実際の制作にあたってこだわった点などがあればお教えください。
針桐:造形的な話をすると全体のシルエットは球体に近くして、その中を埋めるように鳥や電柱などを配置するという作りになっています。そして、これらのオブジェクトがそれぞれをどのように支えるのか、というところが技術的なポイントではありました。各オブジェクトは基本的に3点以上、他の部品に接するようにしてバランスを取っています。例えば、このスーツケースはスカートの2段目と電柱、そしてカカトと接しています。スカートも同じく電柱や変圧器などで支持しています。この鳥も4匹くらいがワンセットで、同じく3点で支えています。ちなみに鳥だけで30パーツくらいに分割されていますね。
針桐:空間中に複雑に存在しているものを物理的に支持することは、立体造形をするうえで非常に難しいポイントだと思います。もう少し詳しく話すと、細かいパーツを配置するのは、それほど難しくはなくて、全体の荷重を支える支柱になる部分をどこに配置するのかが重要になってきます。最初はこのデザインとは違って、送電塔のようなものを想定していました。ですが、それだと支えられなくて、太い電柱を1本にしました。実際にどう支えているかというと、電柱とそこから鉄骨に支えられている変圧器が支柱になっています。あと、この人物は3段スカートを履いていますが、2段目のスカートで上半身と下半身支えと同時に、電柱と変圧器を保持してそこで全体を支持しています。そうするために2段目のスカートについては、エッジなどは薄く見えますが、内側の部分は分厚く作ってあります。そうすることで強度の確保と重心も安定させることができました。
針桐:そういった点をふんだんに盛り込み、かつクリアしていく点が、原型師の仕事の面白さであり、今回はそれが伝えられるような作りになっているかと思います。もちろん、ふーみさんのイラストを忠実に立体化にするという選択肢もあったとは思いますが、やっぱり指名していただいた以上、自分が普段やっている作風を盛り込んで製作させていただきました。こうした制作の方法は、今回のプロジェクトならではと感じています。
――ちなみに、デザインをされる際は画面上でデータを作りながら、オブジェクトを配置していくように作られるのでしょうか?
針桐:ラフ画みたいなものは一応描いたのですが、実際には立体物を作りながらのデザインを進めたという形になります。特に今回は球体の中にキャラクターだけでなく、電柱や鳥など、いろいろなオブジェクトを置いているので、正面だけではなく様々な角度から見て楽しめるデザインになったと思います。
――今回、このプロジェクトを参加された感想をお聞かせください。
針桐:原型師のオリジナルデザインを公式の仕事としてやらせていただけたのは、非常にありがたいことだったと思います。原型師名を出してオリジナルフィギュアを製作されている方は、本当に造形作家のトップと思っています。そんな方々と同じ仕事をさせていただいて、非常に光栄な限りです。あとは絵師さんと交流できて楽しかったですね。今後はやはりガレージキット化やPVC化などの展開ができたら面白いと思っています。
――最後に、今回このインタビューを読まれた方と、実際に展示をご覧になった方にメッセージをいただけますか。
針桐:今回のプロジェクトでは、三者三様で原型師によって異なるアプローチをしています。そういう意味でも原型師のアプローチの仕方の違いは見ていただきたいなと思います。本当に一言で「原型師」という同じ職業とはいえ、全然アプローチが違っているので、その仕事の面白さが少しでも伝わればいいなと思います。
電撃ホビーウェブでは同じく本プロジェクトに参加した曽我 菜月さん(イクリエ)、Kneadへのインタビューを掲載中! こちらの記事もぜひチェックしてくださいね!