『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第45話

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『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第45話

 

 

「ルーが、本当に奴の、ワイズマンの後継者にふさわしいかどうか確かめるつもりなんだろう。それをこの星で試したいのさ」

キリコの答えにジュモーラン大尉は満足しなかった。

「どうやって? どうやって試す?」

「さあな」

「さあなって!?」

そっけないキリコの言葉がその場の全ての者たちから言葉を奪った。そして言葉を奪った代わりにそれぞれに答えを求めているようにも見えた。

ボブゥ教授は銀河の謎を解き明かすような驚異の数学の才能を思った。

パスダード艦長はあの神業のような操船技術を思い出していた。

クロムゼンダー少佐はチャイルドの異常な成長データを反芻していた。

そして、ジュモーラン大尉の脳裏にはあのブローザン・ヒルでの鮮やかすぎるATの戦いざまが蘇っていた。

(桁違いだった! 群を抜いていた! あの双剣の薔薇が手も足も出なかった! さすがメッタリアという腕だった! ……だが、だが、それだけじゃない……そうか‼)

「碑文だ! 碑文がそうなんだ!」

ジュモーラン大尉が叫んだ。

(碑文がどうした?)

という皆の疑問に、

「神は、ワイズマンはこの死んだような淀んだ惑星に碑文を取り出して揺さぶりをかけたんだ。いいですか、こういうことですよ!」

ジュモーラン大尉は自信たっぷりに一同を見回した。

「まずは、この惑星にメッタリアが降臨するという噂を流した。数百年動きのなかった星に動揺が走った。既得権益者には不安が、被圧迫者には希望が生まれた。そうしておいてかつて神自身が仕込んだ碑文を、ブローザン・ヒルに雷を落として碑文を出現させた。碑文出現の意味をめぐって関連五国は沸騰した。ヒルトップの碑文に神の意志を感じた支配者たちはその占有に必死になって、挙句は……」

「取り合いから、動乱必至というところを」

「チャイルドが収めた」

「挙句に碑文の意味をも再認識させた」

「AT一機で」

大尉の説に賛同の言葉が続いた。

「神というのは支配と統治と、結果としての安定を体現します。メッタリアは見事にその意思を見切って後継者であることを証明して見せたという訳です」

得意満面の大尉の結論だった。だが、

「神はサイコロを振らないと言うんだが、どうしてかなあ?」

ボブゥ教授が疑問を漏らした。

「教授、何がどうしてというんのですか?」

大尉が聞きとがめる。

「いやね、一連のことを神が仕掛けたとすると。まあ、ルーが収めたからいいけど収められなかったらせっかくの数百年の安寧が壊されたかもしれないと思うと……」

教授は首をかしげる。

「だからこそ本物、後継者だという証明じゃないですか」

大尉が言い募ると、

「万が一、万が一にもルーが収められなかったら、それがきっかけでこのあたりの安定は壊れていたかも、神はギャンブルはしないと思うんだけどねえ」

「ですから、これはギャンブルでなく! 神の!」

「神じゃない。ワイズマンだ」

大尉の言葉をキリコが遮った。

「ワイズマンはこのアストラギウス銀河に支配と統治の仕掛けを張り巡らしたが、時にそれが綻びることも知っていた。むしろ次の時代の支配と統治のために綻びを先導することもある。百年戦争がそれだった」

声もない一同の耳膜をキリコの言葉が揺らす。

「この世を支配統治するには戦争を操ることが最も有効だというのが奴の考えだ」

「じゃあ! じゃあ!」

まとまらない思考が大尉から論理的な言葉を奪っていた。

「何で神は、いやワイズマンは?」

混乱する大尉にキリコが言った。

「テストは終わっていない」

「終わっていない? じゃあこの後、何が?」

さらに混乱する大尉のもとへガラーヤン大佐からの伝言が届いた。

「議長閣下が、お呼びだと?」

大尉はその場に未練を残しつつ、

「失礼いたします」

その場を退出していった。

 

 

「お呼びでありますか」

長靴の踵を鳴らして敬礼するジュモーラン大尉を一瞥したガラーヤン大佐が言った。

「大尉、貴様は存外に分かり易い奴だな」

「はぁ……?」

「何をしていたか知らんが、これからというところを邪魔された顔色がまる分かりだ。わしはこれでも案外に人の心が読める」

「……」

「まあいい。軍の宇宙港まで客人を迎えに行ってもらいたい」

「客人、ですか?」

「ああ、メルキアから遥々な」

「メルキアから!?」

「なかなかに面白いメンツだ」

「面白いメンツ?」

大佐の物言いは意味ありげだったが、

「時間が惜しい、急いでくれ。説明は車の中ででも聞ける」

大尉は言われるままにすでに用意されていた車両に乗り込んだ。

「大尉聞こえるか?」

車が走り出すと同時に大佐が車内電話を掛けてきた。

「客人は五人。メルキアの自由交易都市グルフェーのバニラ商会の四人とジャン・ポール・ロッチナ博士だ。どうだ、なかなかに面白いメンツだろう?」

大佐のざっくばらんな言葉が弾んでいる。

「この中にソルティオ・バートラ―という若いのがいるんだが、こいつとはかつて取引をしたことがある。貴様もジャン・ポール・ロッチナ博士のことは聞いたことがあるのではないか」

「いいえ。初めて聞く名です」

「ハハハハハ、鼻の利く貴様でも知らんことがあるんだな」

「……」

「ロッチナ博士は、キリコとワイズマンの専門家だ」

「えっ!!」

大尉の口から思わず驚きの声が漏れた。

 

続く

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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