『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第54話

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『装甲騎兵ボトムズ チャイルド 神の子篇』第54話

 

一幕一場に緞帳が落ちる。

動きを止めた二機のスモークデスチャージャーから辺り一面に白煙が放たれ視界を奪っていた。

やがて――――。

「この為にあの場所を指定したのか」

「ああ、そうすれば脱出がしやすいと思った」」

惑星グラッセウスの重力圏を抜けた船のブリッジでバニラが、ココナが、ゴウトが、キリコを囲んでいた。

あの後、間を置かず近くに駐機していた商会の船に全員が飛び乗ったのだ。全員の中には無論チャイルドも入っていた。

「あの戦いはどういう意味があったんだ。もとから二人の馴れ合いか?」

バニラがソルティーと共に操舵するチャイルドの背に目をやった。二人は力を合わせて立ち塞がるフローターベルトの群れを抜けていた。

「さあな」

キリコの答えはそっけなく、そしてそれは終わった。

一幕一場を振り返り振り返り、答えを求め続けるものは他にもいた。

「閣下、あの幕切れはどうだったんでしょうか? 勝ったのはキリコだったんでしょうか? それともメッタリアが……?」

訊ねるジュモーラン大尉にグラスのガナハを揺らしながらガラーヤン大佐が浮かぬ目を向ける。

「キリコのことだあの距離でマグナムの狙いは外すまい、キリコが勝ったともいえる。だがその前にメッタリアがコクピットにアームパンチをぶち込めば決着はついていた。つまり…」

「やはり、あの戦いは馴れ合いですか!」

「いや、その前の戦いで一弾でも一撃でも当たっていれば、どちらかは死ぬ。互いに手加減していたとは思われない」

「では、では?」

「大尉、もういいではないか。いずれにしてもこの惑星には神の子もメッタリアもいなくなったのだ。余計な神経を使わなくていい。わしとて心が決まった。この聯武国にはやるべきことがいくらでも残されている。この国の立て直しに手を貸してくれい」

そういうガラーヤン大佐の表情は軍人のそれではなく、すでに政治家の狡猾と太々しさのそれに変わっていた。

「は、はぁ……」

「ふん、そうがっくりするな。隙があればいつでもわしの寝首を掻いていいぞ。ハハハハハ、だがそれまではわしを助けろ」

そう言うと大佐はグラスのガナハを喉の奥に放り込んだ。

母船の巡洋艦に還る揚陸艇の中でも論は紛糾していた。

「そもそもが、あんな戦いを許すべきではなかったんだ。戦いさえなければ無傷の二人を連れてメルキアへ帰ることが出来た。そうすれば、パスダード艦長、貴方だって私だってともに任務を全う出来たものを!」

「それを言いますかなクロムゼンダー少佐。いつだってあなたも異を唱えることが出来た。貴方は一言だってあの戦いに反対だとは言ってない。わたしの耳にその覚えはない!」

「しかし! しかし艦長!」

「しかしですと? しかしの後に真っ当な言葉が続くことを切に願いますな少佐!」

「むううー、しかし貴方は確かに二人の戦いを望んだその結果を見たかった! それは間違いない事実だ!」

「それはあなたも同じだ! それを今さら!」

「今さらですと! 今さらですと!」

傍らで黒衣がばさりと打ち振るわされた。

「黙らしゃらんか、見苦しい!」

苦り切ったロッチナ博士が二人を一喝した。

「あなた方のちっぽけな立場と身分はこのわしが保障しましょう程に、いい加減に黙らしゃらんか」

バーンの威光を盾に強引にメルキアまでの同乗を決めたロッチナ博士だが、そのバーンへの報告を含め、形にならない胸の想いが居心地悪く燻ぶり続けていた。

(キリコめ、またしても…むぅ……)

そして、そう呻くしか答えは出なかった。

 

 

「ルーも私も、置いて行かれてしまった」

ボブゥ教授が、赤い空赤い大地を見ながら呟いた。

ここは惑星サンサ、焼けた惑星だ。

「あんたにも挨拶なしかい」

老婆が聞いた。名をゾフィーという。

「一言も…」

「そういう奴だ」

二人は粗末だがそれなりにしっかりした造りのコテージのテラスにいた。二人の視線の先には少年と少女がいた。少女の名はジュノ。少年の名はルーと言った。

風に乗って二人の声が流れてくる。声が弾んでいた。

「あたしには見えないけど、いい子に育ったようだ」

老婆の目は盲いているようだった。

「キリコは約束を守ったわけだ」

「ん?」

「ワイズマンとのさ」

「ああ、食わせて、いろいろ教えて、大きくするって、あれね。しかし、キリコはルーに何を教えたんだろう?」

ボブゥ教授は今までのあれこれを思い出していた。

「僕も手伝うよ、ジュノ」

「えっ?」

「君とゾフィーはこの星に青い空を取り戻したいと思ってるんだろう」

「そうよ!」

「出来るよきっと出来る! 僕も手伝う!」

「えっ! え! え――っ!」

少女の瞳が驚きと喜びに輝いた。

少年と少女の後ろ姿を見ながらボブゥ教授が呟いた。

「なんだか長居することになりそうだなあ」

「飽きるまでいればいいさ。いつか、あいつもふらっと帰ってくるかもしれないしさ」

 

 

イラスト:谷口守泰 (C)SUNRISE

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