“サンライズの中の人”もやっぱりガンプラが好き!上井草模型倶楽部メンバーが1/60のビッグサイズでMS-05Sを製作!

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アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は、一年戦争最初期におけるMS開発史が描かれている点が魅力のひとつだが、とりわけMSの始祖とも呼べるザクシリーズは多くの機体が登場し、印象深いシーンを彩った。

今回紹介するMS-05S ザクI(シャア専用機)は、1/60スケールのビッグサイズである。これは「PG 1/60 MS-06F 量産型ザクII」をベースに徹底改修がなされたもので、形状から細部ディテールまで、設定画を基にこだわって作られた。同機はガンプラであれば1/144スケールで「HG 1/144 MS-05S シャア専用ザクI」としてリリースされているものの、それ以外のスケールでは完成品フィギュア(ノンスケール)のGFFMCを除き立体化されていないので、なかなか珍しい存在だ。

製作したのは株式会社サンライズの関口敦彦氏。ガンダムの制作会社であるサンライズには、仕事でガンダムに携わっているにもかかわらず……というよりもだからこそ、こだわってガンプラ作りに精力を傾けるスタッフも多い。サンライズのスタッフが多数在籍する「上井草模型倶楽部」はまさにそうした人たちで成り立っている模型サークルなのだが、関口氏もそのメンバーのひとり。関口氏はまた、KADOKAWA発行の『ガンダムホビーライフ』(GHL)が主催するサークル対象のガンプラコンテスト「ガンプラチームキングダム」の審査員でもある。

そんな関口氏の、ガンダム・ガンプラ愛に溢れたこの作品を、見ていこう。

▲ベースになった「PG 1/60 MS-06F ザクII」から、頭部、ボディ、前腕、脚部などが大きく変更されているが、それ以外もスジ彫りをはじめ設定画に忠実にディテールアップが施されている。塗装は下地にシャインレッドのスプレーを使用し、ドライブラシで濃淡を付けて質感を高めた。ただ「MSシャアピンク」でドライブラシを行ったため色味が「2オクターブ高くなってしまって」(関口氏)、急遽クリアーレッドをさらに上からドライブラシし、色味を落としたという。大河原邦男氏によるイラストに近い色になって、結果オーライとのことだ。

 

▲背面。濃淡をつけた機体色と、銀のドライブラシを入れた関節のコントラストが映える角度。ランドセルからマシンガンに伸びる給弾ベルトは市販パーツを使い、柔軟に可動する。給弾ベルトまわりはいちばんのこだわりポイントなので、なんとか再現したかったのだという。

 

▲頭部。ザクIIとは、頭頂部から鼻先にかけて伸びるアーマー、パイプの有無、後頭部のバルジなどそもそも形状が異なるが、こうした形状の再現のみならず、スジ彫りによるパネルラインの追加も行なわれた。モノアイはベースキットの仕様を活かしてLEDを配置。ドライブラシによって、頭頂部のパネルラインや頬のラインの立体感が強調されているのがわかる。

 

▲MS-05 ザクI、いわゆる“旧ザク”との差異であり、その後に続くMS-06 ザクIIへと継承されていく右肩のシールド。THE ORIGIN版では中央に弾倉を接続する長方形のアタッチメントが4基配されているが、この作品でも再現された。HGは1/144ということもあり四角い凹モールドのところ、1/60のこの作品ではアタッチメント内部のディテールも作られた。なお、「08」のナンバリングはマスキングと筆によるもの。

 

▲左肩のアーマー。こちらも、“旧ザク”とは違いMS-05Sではスパイク付きが採用されており、右肩同様MS-06 ザクIIへの技術的発展過程がうかがえる。作品としては、スパイク根本の外周スジ彫りや丸い凹みリベットなど、設定画に準拠したディテールアップが施されている。

 

▲左肩スパイクアーマーの製作途中。スジ彫り作業が行なわれている。

 

▲上腕部。細かい部分だが、ここも設定画に従い、後ろ側から前に向かって四角い板状の厚みが追加されている。黒鉄色に銀のドライブラシが施された関節との対比もポイント。

 

▲前腕はベースキットから大幅に改造を施した部分。いわゆる旧ザクとザクIIの相違点としての認識は薄いだろうが、THE ORIGINならではの特徴的なデザイン箇所でもあり、今回はその再現が行なわれた。なおベースキットにポリエステルパテを盛った工作のため、削り込み過ぎて穴が開いたりと苦労した箇所でもあるという。

 

▲ボディは改造が大幅に施されたところ。中央の形状はMS-06とはまったく別モノであり、胸部両サイドの長方形のディテールも付け足されている。さらに腰回りのスカートもディテールの追加と幅増しが行なわれた。

 

▲上半身を俯瞰で確認。

 

▲太モモ。こちらも、モールドなどがTHE ORIGIN版のザクでは特徴的な部分。……ではあるのだが、実はこの作品、ヒザ部分や両脇などにパテを盛り、微妙なライン変更が加えられている。また、PGではアーマーに連動機構が採用されているので、こうしたギミックとの調整作業も行わねばならなかったという。

 

▲ヒザ下の部位は、形状こそベースキットに似ているものの、THE ORIGIN版はディテールやボリュームなどは大きく異なっている。

 

▲脚部の作業途中。スソ部分などに、同じ「ザク」の脚ながら、かなりの変更が加えられているのがわかる。

 

さて、ここまで紹介をしてきたMS-05S ザクI(シャア専用機)だが、じつはさらにマニアックな工作も施された。それがこちらだ。

▲ドラム式のザク・マシンガンを装備し、ランドセルも弾倉が撤去された形態。

 

この、おなじみのドラムマシンガン採用のザク・マシンガンを持ったバージョンは、実は大河原邦男氏によるイラストへのオマージュである。この機体、かつて限定品の「HG 1/144 MS-05S シャア専用ザクI(LIMITED MODEL)」としてリリースされた仕様なのだ。キットはもちろん1/144スケールなので、これを今回は1/60で再現してしまったというわけ。なお給弾ベルトに繋がる弾倉はネオジム磁石での取り外しが可能なので、換装は意外とお手軽にできる。そして、そもそもこのランドセル自体、箱組みのスクラッチで作成されていて、関口氏の苦労がしのばれる。

▲ランドセルの製作途中。

 

▲武装一覧。すべて関節同様、黒鉄色にシルバーのドライブラシを施した、往年のガンプラファンにはおなじみであり「これだ!」と思える塗装が施されている。また、こうしたウェザリングに対比させるように、マシンガンのサイトにはクリアーレッド、クリアーブルーがあしらわれているところもポイントだろう。

 

これにて作品紹介を終わるが、改めて全身の製作途中写真をご覧いただきたい。1/60という大サイズにここまでガッツリと手を入れ、さらにスジ彫りまでしっかりと設定画通り再現したその労力は並大抵ではなかったはず。冒頭でも申し上げたが、ガンダム・ガンプラに対する造詣はもちろん、熱意が伝わってくる作品なのである。

▲全身の加工箇所。ここからさらにスジ彫りなども施されている。

 

サンライズ 関口敦彦氏に聞く

撮影が終わったあと、関口氏にお話を聞けたので、レポートしよう。

Q:いつ頃からプラモデルを作り始めたのですか?

関口氏:高校生の頃にMG(マスターグレード)がリリースされて、そこからだと思います。兄はガンプラブームの世代なのですが、私はブームの頃は作っていませんでしたね。その後大学に入ってからは疎遠になっていたものの、サンライズに入社して再び作り始めまして、BANDAI SPIRITSさんの開発の方を含めたコンペに参加したり、上井草模型倶楽部の前身となった活動に参加していました。そうそう、僕が使っているエアブラシは、そのときのコンペの賞品なんですよ(笑)。

Q:模型歴は長いんですね。どのような模型を作られていましたか?

関口氏:僕はザクが好きなので、高校生の頃は(2.0ではなく)MGのザク(MG 1/100 MS-06F/J 量産型ザクII)を6体くらい作っていましたね。もう説明書を見なくても組めるようになってしまって(笑)。その後はB-CLUBのガレージキットを遠方まで買いに行ったりもしました。たしかMGのザクをMS-06R-1Aに改造するパーツだったと思うのですが、ガレージキットのお値段に衝撃を受けたり(笑)。離型剤を落とすのに中性洗剤を付けた歯ブラシで洗うなんて知識をこのとき初めて知って驚きました(笑)。

Q:今回はどうしてMS-05Sを作ろうと考えたのですか?

関口氏:私は、アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の1話から6話まで、設定制作という仕事を担当していたんです。この仕事は、設定画などのデザイン発注を管理するのですが、安彦良和総監督やカトキハジメさん、ことぶきつかささんと一緒にお仕事させていただきました。そうしたときに、このMS-05Sの設定画を目にしたんですね。とっさに「これはプラモデルで作れそうだ」と考えて。もちろん商品は出るでしょうから、まずは他人がやらない形で作ってみようと、PGサイズでの製作を決意しました。

Q:作品を見た感じ、なかなかたいへんな作業でしたね。

関口氏:MS-05Sは、設定上はほとんどMS-06 ザクIIなので、そんなに大変ではないだろうと思っていたのですが、思いのほか大変で、作ったらまるで別物でした。上腕は関節だけ活かして箱組ですし、前腕もPGとは形状そのものが違うので削りすぎて穴が開いてしまったり(笑)。当時は、『THE ORIGIN』のスタッフにもプラモデル好きな方がいらっしゃるので、そういう方やカトキハジメさんご本人にも途中経過をお見せできたのが、いい思い出です。

 

THE ORIGINのアニメが作られていた頃からなので、この作品は(ずっと作業をしていたわけではないとはいえ)完成まで足掛け3年くらいかかったという。今回は、「ガンプラチームキングダム」に審査員として関わることから関口氏に取材をさせていただいたのだが、最後に彼から参加者へのメッセージをお伝えして本稿を終わりにしたい。

「コロナ堝があって、あまり人と面と向かって会いづらくなってしまった時代ですが、プラモデルを通じて、そしてチームを通じて新たな絆作りをするツールとして、ガンプラを使っていただければと思っています」(関口氏)

(C)創通・サンライズ

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