まぼろしのWMザブングルを求めて――『戦闘メカ ザブングル』五十嵐浩司のお蔵出し第7回
このコラムは、アニメーション研究家・五十嵐浩司が30年以上にわたって集めてきた、おもちゃやプラモデル、そのほかキャラクターグッズについて書いていくという連載です。
※バックナンバーも併せてご覧ください。
- オモチャがテレビそっくりに――「仮面ライダー 光る回る電動変身ベルト」五十嵐浩司のお蔵出し 第1回
- ダイアックローン!!30年ぶりの復活に寄せて――『ダイアクロン』五十嵐浩司のお蔵出し第2回
- マジンガーZの敗北、そして新ヒーロー登場。衝撃の連続!!――「マジンガーZ対暗黒大将軍」五十嵐浩司のお蔵出し第3回
- 先輩のバルキリーに一目惚れ?『超時空要塞マクロス』五十嵐浩司のお蔵出し第4回
- 謎のロボット集団との出会い--『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』(前編)五十嵐浩司のお蔵出し第5回
- 推しメンは30年前からバンブル――『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』(後編)五十嵐浩司のお蔵出し第6回
お久しぶりとなってしまいました。アニメーション研究家の五十嵐です。今日ご紹介したいのはこちらの作品です。
今回は1982年に遡ります。当時は3月に映画『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』が、7月には『THE IDEON 接触篇/発動篇』が公開されまして、ロボットアニメーションが話題の中心となっていました。
その中心はもちろん『機動戦士ガンダム』で、前年に大ブームとなった“ガンプラ”も健在です。しかし、モビルスーツの商品化は1981年度でほぼ終わっており、これ以上ラインナップを広げることが難しくなっていました。やがてアッグガイなどの本編未登場水陸両用モビルスーツや、『モビルスーツ・バリエーション』が新たに加わっていきますが、メーカーに求められるものはガンダムに換わる新キャラクターの創造でありましょう。
そこでバンダイ模型(現・バンダイホビー事業部)が立ち上げたのは「ウォーカーマシンシリーズ」。『戦闘メカ ザブングル』に登場するウォーカーマシンを題材としたプラモデルシリーズです。このシリーズの特徴は、映像本編では主人公が乗るザブングルも、ウォーカーマシンの一種として取扱っていたことでした。
▲1983年発行のバンダイ模型カタログより、ウォーカーマシンシリーズのページ。ザブングルとアイアンギアーは別枠での紹介となっているが、その扱いが突出しているわけではない。
これは大変野心的な試みであり、インパクトがありました。アニメーションのロボットにリアリティが求められていた時代、商品仕様だけでなく、シリーズコンセプトにもそれを徹底したわけですから。だから、ウォーカーマシンシリーズのナンバー1は1/100が「トラッド11タイプ」、1/144が「ダッガータイプ」と、いずれもザブングルではありません。翌年タカラの『装甲騎兵ボトムズ』の1/35SAKがストロングバックスから始まった時も、ウォーカーマシンシリーズを思い出したものです。
とはいえ、なかなかザブングルが発売されません。やむなく、当時出ていた全高約14センチの大型消しゴム人形を塗装して、1/144ザブングルの替わりにしていました。もちろん消しゴムなので、可動部分は最低限でしたが、ヒジを曲げるために園芸用の針金を腕に埋め込んだりもしました。なぜ、そこまで入れ込んだのか? と問われれば、やはりザブングルへの偏愛があったのです。そう、ザブングルのデザインそのものが好きだったのです。変形合体メカでありつつ、胸が左右非対称だったり、全身がブルーだったりとヒーローとリアルの中間にいるテイストにくすぐられたのでしょう。
▲廉価玩具メーカーの山勝が販売した大型の塩ビ人形。全高は約14センチ、9つのパーツに分割されており、首、肩が回転できる。サイズは1/144よりも少しだけ大きい。筆者が当時塗装したザブングルはブルーの成型色のものだった。
さて、1982年の季節が夏から秋へ変わる頃、「模型情報」に1/100ザブングルが10月下旬発売との告知が出ました。もちろん「ついにきた!」と喜んでいたわけですが、秋が冬になり、ゆく年くる年が放送されてもザブングルは店頭に並ばなかったのです。
▲「模型情報」の1/100ザブングルの発売告知。まさかこの時は5カ月待つことになるとは思わなかった。
やがて、忘れもしない1983年1月15日、成人の日に青森市サンロード青森の玩具店でザブングルのプラモデルを発見!! でも、それは1/100ではなく1/144でした。それでもようやく憧れのザブングルを手にした喜びは大きなものでした。その後、1月の終わりに体調を崩してしまい、久々の外出で模型店に出かけた時、ようやく1/100ザブングルに出会うことができました。
▲1/100ザブングルの初版パッケージ。この白を基調としたデザインはスケールモデルを意識したもので、タミヤはもちろんバンダイ模型や多くのメーカーが採用していた。のちに『銀河の鷲メガロザマック』『超時空要塞マクロス』も、このデザインを踏襲する。
当時の青森県は『ザブングル』の未放送地域ではありましたが、テレビ放送が1月いっぱいで終わっていたことはアニメーション専門誌で知っていました。放送中に発売が間に合わなかったザブングルに憐憫の情が湧き上がり、それまで以上に偏愛レベルが増したことは言うまでもありません。
プロフィール
いがらし・こうじ。1968年、青森県生まれ。1992年よりフリー編集者およびルポライターとして活動中。主なジャンルはアニメーション、特撮、トイやプラモデルのホビー関連。2015年には、アニメーション研究家として「メカニックデザイナー大河原邦男展」の監修を担当した。近作は、「超合金魂計画20th」(KADOKAWA)「オール・アバウト村上克司 スーパーヒーロー工業デザインアート集」(パイ インターナショナル)『勇者王ガオガイガーFINAL』(BD解説書)。連載コラムに「俺の怪獣図鑑」(週刊東京Walker+)「サブカル最前線」(東奥日報)がある。
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