初代のプラモ制覇!!電ホビ版第4回――近代スミ入れ ~10墨十色~

更新日:2021年3月26日 17:48

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「塗装が完了したらスミ入れをしなければならない」
こんな風に考えている方も多いのではないでしょうか?
これはとんでもない誤解。大昔、スジ彫りが凸だった頃の、下手クソなスジ彫り彫り直し時代ならいざ知らず(笑)、現在のハイクォリティーなキットはそんな事しなくても十二分に綺麗に見えます。グラデーション等を掛けて塗装すればそれはもう、その時点でバッチリってなもんです。
ではスミ入れは要らないのか? いやいやこれはまったく別の話。
スミ入れもまた進化しまして、今やスジ彫りをクッキリさせるためだけに入れるなんてつまらないもんじゃないんです!

 

 

 

まずは懐かしい電撃ホビーマガジン時代の作例を見ていただこう。
これには実はスミなど全く入っておらず、グラデーション塗装の陰影だけで表現されている。

▲「スミ入れを行なわない」と言いながら、塗り分けの境や段落ち部はエナメル塗料による化粧が行なわれている。となると、「スミ入れ」というのは何もスジ彫りに流すだけの行為ではないのか!?

ここで一般的に「スミ入れ」と一口に表現される作業は、「スジ彫りに黒っぽい塗料を流す」というだけではなく、「基本塗装とは異なる塗料を用いた、塗装の第二段階」的な意味合いが強いことがわかっていただけると思う。

 

 

●使用する塗料の条件

塗装の第二段階であるということは、基本の塗装作業完了後に色々と手を加えるわけなので、基本塗装がラッカー系であるなら、最低それより低い溶解力の塗料使うことが前提となる(条件1)。
また、毛細管現象を利用するため、表面張力の高いタイプの塗料が適する(条件2)。
例えば比較的表面張力の低い「水」を溶剤とした塗料では、アクリル樹脂塗膜より表面張力が低いため、大きく弾かれ水滴となってしまい、上手く流れないので不適切。
よってスミ入れには、上記2条件を満たしたエナメル塗料を使用するのが一般的だ。

 

 

●塗料濃度の問題

一般的なスミ入れは、濃度が低い=粘度も低い塗料を用い、毛細管現象を利用してスジ彫り内にツツーっと流すように行なう。
「塗る」のではなく「毛細管現象で流す」というこの種の技法では、まず塗料の濃度が重要なポイントとなる。
濃度が高ければ上手く流れず、かと言って低すぎればきちんと発色されず意味がない。ハウトゥー記事において最も説明が難しい塗料濃度の問題、肝心な動画ならばいく分かは伝わるのではないか?

 

<適切なスミ入れ濃度>

濃度が高ければ粘度も高くなり、粘度が高くなると上手く流れない。
かと言って濃度を下げすぎてしまうと、発色しなくなり、何色を使用したのか判らなくなるだけでなく、グロス面以外では毛細管現象を生じすぎて、スジ彫り以外にも染み拡がってしまう。

 

 

●確実に効果がある予備工作

スジ彫りに毛細管現象でスミを流す場合、当然ながらスジ彫りがクッキリとした物である方がスムーズであることは言うまでもない。
キットの状態によっては初めから浅目のスジ彫りになっている場合もあろうし、基本塗装を終えたスジ彫りは多少なりと塗膜で埋まり、浅くなりがちでもある。
そこであらかじめ塗装前の段階でスジ彫りの強化を行なっておくことをお薦めする。
ここで少々スジ彫り回を思い出してほしい。スジ彫りの追加という試練を乗り越えてきた諸君であれば、既存のスジ彫りを軽く強化するのはそれほど難しいことではないはずだ。

▲強く、深く掘削する必要はなく、なだらかな形状になっているスジ彫り底面をシャープに角張らせることが目的。スジ彫り内のマイナスエッジが、毛細管現象を強く誘発すのだ。

濃度の調整が万全で、スジ彫りも強化されているなら、ほんの一滴垂らすだけで驚く程スムーズに隅々まで流れるはずだ。
その場合、余分なスミの拭取りも最小限で済み、作業効率、塗面の維持など最も効率的と言える。

 

 

<理想的な「流れ」>

スジ彫りの事前強化が行なわれ、濃度の調整が万全であれば、驚く程スムーズに流れる。このくらい隅々まで流れれば、懸案の拭取りも極僅かで済み、理想的なスミ入れ作業となる。

 

 

スミ入れに使用する塗料、その濃度調整、スミ入れに先立つ予備工作など事前講習はこの辺にして、それではいよいよ実践編に進もう!
まずはもっとも使用頻度が高く、難易度は低い当たり前のスミ入れから順番に紹介する。

 

 

●スミ入れの1 ~ごく一般的なスミ入れ~

10墨十色の1発目、まずはごく一般的な、ツツーっと流すタイプの典型的なスミ入れ。
エナメル塗料を用い、濃度を適切に調整、そのうえスジ彫りの強化も行なわれているなら、まず確実に上手くいく、もっとも基本となるスミ入れだ。

▲一般に「スミ入れ」と言われてイメージするのはこのタイプのものだろう。これといった過不足なく、あらゆるジャンルで行なわれているタイプの代表的スミ入れ。

 

 

●スミ入れの2 ~ライトカラーのスミ入れ~

1発目では、これまでごく一般的という印象だったジャーマングレー等、比較的暗い色を使ったスミ入れだったが、色を明るめにするだけでも充分表情が変わる。
元来、近年のハイクォリティーなキットのスジ彫りでは、それ程必須という物でもなくなってしまった感のあるスミ入れである。かと言ってまったく入れないと場所によっては少々物足りない。
そんなときは10墨十色の2、極めて塗装色に近い、ライトカラーのスミ入れをお試しいただきたい。

▲濃さ、粘度などの調整は前項とまったく同じ。もちろんスジ彫りの強化も行なったほうがよく、流れるスピードなどもまったく同じだ。

暗い色でスミ入れを行なってみると目立ちすぎるので、濃度を下げることで発色を下げる、といった無茶な調整も見かけるが、色自体を明るくすれば濃度調整他はまったく従来通りの感覚で行えるので安心感があるし、塗装色に近い色でスミ入れを行なえば拭取りも楽。「スミ入れは暗い色で」という先入観からも脱却できる。
同じパーツで比較すれば印象の違いが分っていただけると思う。

▲同じパーツ、同じスジ彫りに明度の違うスミを流しただけだが、仕上がりの印象は大きく変わる。同様にやや赤くする、茶系に寄せる、青っぽくするなどでもまた印象を変えることができる。

 

 

●スミ入れの3 ~カラフルなスミ入れ~

繰返しになるが、スミ入れは黒っぽい色がベストとは限らない。
近年増えてきたグロスピンクの作品や、パールホワイトの作品などモダンな作風の場合、黒っぽいスミ入れによる手法は古くさく見えてしまう場合もある。
こういう時は既成観念に囚われず、赤でも青でも色々な色を試してみるとよい。
10墨十色の3はカラフルなスミ入れだ。

▲スケールモデルからスタートしたスミ入れは、当初ウエザリングに近い方法論であった。しかし近年のキャラクター物、フィギアなどは、汚い表現を受け入れないタイプも多い。様々な色を試してみてほしい。

 

 

●スミ入れの4 ~集大成的高級スミ入れ~

10墨十色の4として一般的なスミ入れ方法の最後を飾るのは、もっとも美しく、芸術的な印象さえ伴う高級スミ入れ。
2000年代、電撃ホビーマガジンのメインライターであった岩田トシオが得意としたもので、塗装色との綿密な色調整、つや消し面に滲む加減を最大限に活かした、スミ入れ以上の表現力、むしろ拭取りにこそ、その本領があると言われたスミ入れの最終形態だ。

▲つや消し面に起きるスミ入れの滲みを予め計算し、コントロールすること、その際にベストな色味に調色することなどが特徴の最高級スミ入れ。

本スタイルの場合、塗装色に合わせた微妙な調色(たとえば今回は茶系に寄せている)、適度な滲みを生みやすい薄めの調整が必須だが、何と言っても肝になるのは拭取り。
スミを入れる際には勝手に滲み、拡がるのだが、拭取り作業こそ逆に「綿棒による描画」と言った意匠が必要になる。

 

<拭き取るという描画>

模型塗装では、消しながら、吸い取りながら、拭取りながらと言うタイプの塗装技法が意外に多い。このスミ入れも典型的な「消すことで描く」タイプ。絶妙に拭き残すことでグラデーションが成立する。

 

 

●スミ入れの5 ~ガッツリとスミ入れ~

10墨十色の5は、逆にこれ以上ないくらいハッキリ、クッキリとしたスミ入れ。
90年代には結構多かったガッツリ黒々と男らしいスミ入れだ。近年では少数派となり、メーカーの完成見本や、食玩などマス商品に残る程度だが、このタイプは最早、スミを入れると言うより「黒く塗り分ける」に近い特殊なタイプと言える。
普通のスジ彫りにも行なうが、近年ではむしろ段落ち等に「塗り分け」として使用される。

▲技法的にスミ入れと呼べるかどうか疑わしいレベルだが、90年代には頻繁に行なわれた、当時では一般的なスミ入れ。

こういった黒く、濃いスミ入れを行なう場合、最大の問題になるのが拭取り。
塗装面が白地で、更に艶消しであったりするとなかなか綺麗には拭き取れず、黒ずんでしまう。
かといって綿棒でムキになって擦ると塗面がダメージを受けてしまうこともある。
ガッツリスミ入れの場合は前項の高級スミ入れとは異なり、滲みなどの意匠は不要なので、凹部以外のスミを完全に吸い取ってしまうフィニッシュマスターの使用が有効だ。

▲エナメル塗料といえど、それ程簡単、完璧に拭き取れるものではない。白地に黒などのガッツリスミ入れの場合は、つや有りで塗装し、スミ入れが終わってからつや消しコートを行なったほうが無難といえる。

 

 

●スミ入れの6 ~マスキングの境をフォローする~

スジ彫りなどを際立たせたり、マイナスエッジを暗くする等、立体感の強調がスミ入れ本来の効果だが、特定部位を黒くすることはほかにも利用価値がある。
黒く、暗くなってしまうと細かいアラが目立たなくなる効果があることも忘れてはならない。
10墨十色6番目はマスキングの境目をフォローするスミ入れだ。

▲マスキング塗装は、方法論的に段差が生じるのが避けられない。カラフルな塗装では一層目立つことになり、塗り分け境のスミ入れ効果は非常に高い。

 

 

●スミ入れの7 ~クリアパーツ塗り分けのコントラストアップ~

10墨十色の7は6に近いが、キャノピーなど透明パーツを美しく見せるスミ入れ。
マスキングによる塗り分けをフォローするという意味では6とほぼ同じなのだが、透明部分とのコントラストを上げるという効果が加えられ、窓枠塗り分けでは大変効果的な技法と言える。
この場合は予めの段差、スジ彫りの強化が絶対必須。しかも絶対に補修出来ないキワモノスジ彫りになるので、覚悟して臨んでもらいたい。

▲窓枠などマスキング面積が少なくなるほど、テープによるめくれ、場合によっては部分剥離などが起きやすくなるが、スジ彫りの強化と合わせれば抜群のコントラストで仕上げることができる。

 

 

●スミ入れの8 ~ウォッシングと同時にスミ入れ~

10墨十色の8として、メチャメチャ薄い塗料を使った方法を紹介しよう。
のっぺりとした塗装面に表情を付加する、薄いエナメル塗料を使ったウォッシングという技法があるが、これはウォッシングを行ないつつ、同時にスミも入ってしまう、というお得な方法だ。

▲塗装面に合わせた調色が重要なのは言うまでもないが、適度に発色しつつも、極めて流れやすい絶妙な濃度調整も重要。色を強く表現したい場合は、彩度を高く調色しないと判別しにくいので注意!

この技法も、バシャバシャ塗るときよりも、拭取りに描画的センスが要求されるタイプ。
面全体の拭取りなので、綿棒よりティッシュなどが適する。
独特の拭取り加減を肝心な動画でご覧いただこう。

 

 

<拭き取るという描画2>

ティッシュをタンポのようにして、ポンポンと叩くように拭き取る。CGのフィルターのような変化が付けられれば上等。ご覧のようにスミも同時に入ってしまうという便利技だ。

 

 

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(C)創通・サンライズ

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