初代のプラモ制覇!!電ホビ版第6回――ニッパーの力学~プラモ用こそが最上位機種という奇跡~

 

あまり大きく掲げておりませんでしたが、これまで『工作編』『塗装編』とやってまいりました。
今回は新単元の『道具、材料編』。工作編、塗装編と並んで本連載の3本柱となる大事な単元です。
道具編では工作的な(塗装的な場合も有りましょうが)目的ではなく道具そのものに焦点を当てて、その機能や効果、使い方などを集中的に解説致します。
当然ながら物理も化学も一杯出てきますので、覚悟してご参加下さい♪

 

 

プラモデルに使う道具は、自動車や家電などの一般工業界や、古くからある伝統工具、材料など、他所から借りてきたような流用品ばかり……。
残念ながら世間的に何の役にも立たないプラモデル、大金掛けて専用機材を開発してくれる物好きもいなければ、もちろん資金もない。
大抵の道具や材料は本来は他業種のお下がりというか廉価版といった程度のもばかりなのもやむを得ないところ。
そんな中、ほとんど唯一と言ってもいい『模型用こそが最上位機種である!』という物が存在する。それこそがニッパーなのだ。

 

▲原型製作時は厚いプラ板を切ることが多いこともあり、費用対効果的に永年愛用しているのはタミヤ薄刃ニッパー。

 

●切断の概念は大きく分けて2つ

さて、ニッパーの具体的な解説に入る前に『切断』とはどういうことであるかを軽く説明しよう。
切断とは『物を切ること、切り離すこと』などと定義されるが、これでは模型人には全然物足らない。
作業面から考えた場合、切断とは大きく分けて2つの現象といえるのだ。

 

▲物体を2つに分断するということは、どのような道具を使用しようとも、最終的にはこのどちらかの方法で分断されることになる。

 

1つ目は、切断したい部分を何かで溶かすなり、何かに変えるなり、削り取るなどして、切断箇所を消失させてしまうタイプの切断方法だ。
代表的な例が映画などで見るアセチレンバーナーで金属扉を焼き切っている場面。
これは完全にアセチレンの炎で金属を消失させるとで結果的に切断を行なっている。
身近な例ではノコギリタイプで山のように切りくずが生じる切断。切断箇所を木くずに変える、詰まるところ消失させることで切断が行なわれる。

 

▲クズになった分の材は無駄になるが、それ以外の変形は起きにくく、切断面のコントロールはむしろ楽だ。比較的硬質な材向き。

 

そしてもう1つがニッパーやカッターに代表される、押し、変形させ、刃をめり込ませていくことで限りなく切断部を薄くした後、最終的には引きちぎるというタイプの切断。
カッターや包丁は鋭い刃で物質を押すことで変形を促し、刃が食い込むことでどんどん押し拡げながら、最後は左右にちぎり開く。あるいは折り取る。
切断時に切りくずが生じない分、材の無駄は生じない代わりに、切断面は大抵の場合垂直面にはならず、歪み、汚くなる。

▲本来は軟らかい物や、薄い物に向いた切断法だが、作業的に楽なケースが多いため、数ミリのプラ板などにも頻繁に用いられる。

 

●ニッパーの切断概念とは!?

概念的には引きちぎるタイプに分類されるニッパーの切断、具体的にはどういった作用で切断されるのかを見てみよう。
刃先が切断物を挟み、力を加えることによって切断物に食い込むと、切断物はくさび形の刃の形状によって圧縮、変形しながら中央赤丸部分に力が溜る。
この時は刃によって上下から加わる力と、刃の斜め部分によって(図の)右側に押される力が、切断物の強度によって均衡を保っているため、切断物は大人しく変形させられるがままになっている。

▲切断中は、上下からの力が、刃の斜め部分によって右側への力に変換されながら変形し続けている。金属など硬い物を切るニッパーは、より変形を促しやすい、両側とも斜めになった刃が付いていることが多い。

途中までは右側に加えられる力に耐えていた切断材も、ある程度のところで限界を迎える。
いまだ上下からは斜め右方向の力が加えられ続けているうえ、中央部分にはこれまで加えられ続けた力が大きく溜っているので、物質強度を超えた時点で一気に暴発し、引きちぎれながら右側部分が激しく弾け飛ぶ。

 

▲硬質な金属の方が加える力は大きいものの、変形自体はスムーズで、ジワッと軟らかく切れる。靭性が高い樹脂類の場合、なまじ簡単に変形してしまう分、最後の切れ応えは激しく突発的になりなすい。

つまりニッパーは上下から押し潰しつつ、ある程度材が薄くなった時点で、右側部分を激しくはじき飛ばすという『最終的に引きちぎる』タイプの切断であるという事だ。

 

●写真で見るニッパーの切断

イラストによる概念的な説明をしたところで、次は実物の状態を見ていただこう。
「切断部中央に力が溜る」とはつまり、こういう(下の写真)状態を指す。さまざまな力が加えられ、変形を余儀なくされたプラは、細かいヒビを無数に生じたため白っぽく見える。

▲上からの力を受け、上下に潰されるように変形する力と、斜面に押されて右側に引き延ばされる力とがせめぎ合う過程で、細かいクラックを生じ白化しながらもギリギリで頑張っている。

 

細かいクラックでスポンジのような状態になりながらも頑張っていたランナー中央部も、当然あるところで強度の限界を迎える。
限界を迎えるとどうなるのかは例の動画で見ていただこう。

 

<激しく弾け飛ぶ!>

ただのプラ製の棒をニッパーで切るだけで、何故これほどの音が生じ、危険を感じるほどの威力で弾け飛ぶのか? 次はニッパーに秘められた大きな「力」の問題に進もうではないか。

 

●ニッパ-の切断力はテコの原理

ニッパーの構造は支点を介して刃の部分と握りの部分が交差する構造になっている。
ハサミやペンチなど、少ない力で大きな作用を起こしたい道具の典型的な構造であり、テコの原理をズバリ活用したタイプと言える。
高尚な連載である感を高めるべく数式など投入するが、深く考えずに読み進むべし!

 

テコの原理とは、

によって表わされる力の相関で有り、「F1が支点から遠いほど、またF2が支点に近いほど、F1の力はF2に大きく伝わる」というもの。下のシーソーの図を見ていただければ一目瞭然の原理だ。

 

▲子供の頃シーソーで体感した通り、大人は支点の近く(F2)に座り、子供は支点から遠く(F1)に座ることによって、倍以上体重が違っていてなお、釣り合うという物だ。

 

さて、それではこのテコの原理をニッパーに当てはめてみるとどうなるか……。
標準的なニッパーを使用するとした場合、握りやすく力の掛けやすい部分をF1、刃の先端部分をF2として、当然支点はヒンジの部分になり、それぞれの距離をヒンジから握りまでをd1、ヒンジから刃先までをd2としよう。実測値でd1は72ミリ、d2は18ミリだった。
この場合、握る力F1が何キロだったら刃先に掛かる力は何キロくらいになるだろうか。

 

▲おおよその比率でd1とd2は4:1程度になるようだ。大人の標準握力が男性で45キロ程度、女性でも30キロ弱はあるとすると……

何もニッパーを使う度に握力検査のように渾身の力は込めないとしても、軽く100キロ以上の力は掛かることになり、この力のすべてが切断部中央の一点に集約されるとするならば、危険を感じるほどの弾け飛び方をしてもおかしくはないのだ。

 

 

●絶大な力を暴走させないためには……

ニッパーに大きすぎる力があることは判ったし、そのためパーツが弾け飛ぶのも判った。
だが実際に肝心なのは「どうやったら綺麗な切断面で切ることができるのか?」だ。
イラストを思い出していただきたい。
くさび形の刃によって挟み切る過程で、最後まで切ることができないままに、途中でパーツがちぎれ、弾け飛んでしまうのは、斜めになった刃の抵抗によることだったはずだ。
ならば、この抵抗が生じない状況を生み出してはどうか?

 

▲刃を薄くすればクサビ角度も小さくなり、切断物を右に押す力は確かに小さくなる。が、小さくなったとしても依然、力そのものは存在するため、最終的にちぎれてしまうことに変わりはない。

確かに刃を薄くするという考え方も間違ってはいない。
だが、この考え方では「程度」の改善にはなっても「根本解決」には至らないし、刃を薄くすることで必然的に道具自体の耐久力が低下するのも残念だ。
せっかくテコの原理を応用し100キロを超える力を操る道具であるのに、本体がその力に耐えられないのでは、いささか本末転倒で、細かい切断専用の道具になってしまうのは無念といえる。

刃の角度を変えても根本改善されないとしたら……では次は違う方向から考えてみよう。

 

●暴走の抑制は、はけ口の用意が肝心

人間であれ機械であれ、大きすぎる力が暴走を呼ぶなら、まず考えるべきは『力のはけ口』なのだ。
「暴走しない人間を育てる=ニッパーを改良する」等と考えるよりも、どうやって力を逃がしてやるかを考えればいい話で、この場合、力を逃がす、すなわち、弾け飛ぶ側のプラ材が軟らく力を吸収させればよいだけのことなのだ。
プラ材は薄くなると途端に硬度が下がる特徴を持つ。となればハムを薄くスライスするように、常に材の端を切ってやれば、勝手に軟らかくたわみ、自在に力を逃がせるのではないか?

▲刃の厚みを変えたりせずとも、パーツの端を切るようにするだけで、力はすべて丸まる端材が受け持ってくれる。無用な力はどこにも溜らず、最後まで刃の切れ味通りに切断を完了することができる。

 

一般的な2,000円程度のニッパーは、普段途中でパーツが弾けとんでしまうことで、本来の切れ味を発揮できないままに切断を強制終了させられているのだ。
弾け飛ぶことなく切断が可能ならば、驚く程の切れ味を発揮することを動画で確認してほしい。
スケール系の堅めのプラランナーであるが、バターのように薄切りが可能な様を体感すべし!

<スライス動画>

最初の弾け飛ぶ動画とまったく同じニッパーを使用してなお、この切れ味の差、切る場所によってこれほどの差が生じる道具も珍しく、使い方や、練度がまったくと言って必要ない点とも合わせ、元来が非常に変わった道具ということが改めてわかる。

 

▲2,000円レベルのニッパーであっても実際にはここまでの切れ味を持っている。単にこれまでそれを発揮する機会が与えられなかったというだけのことなのだ。

 

▲テコの原理を利用している効果が現れており、ギリギリにの力でやっと切る場合は振動や力のムラが生じ切断面が汚くなりやすいが、有り余る100キロ以上の力で切る場合はまるでバターのようだ。

 

●ゲートカットで威力を発揮するか!?

さて、長々と面倒な話に付き合ってくれたことに感謝するが、さて、ここまでの説明を聞いて、勘の良い諸君はピンと来たことだろう。
そう、この長い解説はつまりゲートの「2度切り」を細かく説明したものだったのだ。
中には「慌てて切らず、落ち着いて2度切る気持ちで……」などという精神論だと思っている方も居るかもしれないが、とんでもない、ここまでの化学的裏付けのある方法なのだ。
1度目は諦めて弾け飛ぶような切り方も止む無し、その代わり安全な位置で余裕を持って切る。
そして改めて、この力を逃がす方法で端をもう1度切る、これが2度切りの正しい解釈なのだ。

▲この場合、近すぎる位置で切れてしまうのが一番の失敗。近くで切りたくとも切れない逆向き法は案外重宝なのだ。

 

▲割箸同様に垂直カット耐性が低いゲート部は、かなり余裕を持った位置で切らなければ細かいクラックであるところの白化がパーツにまで及びかねない。1ミリ以上は余裕を持って切るようにする。

 

▲1度で切るのに比べれば遙かにマシ……確かにその通りだが、これでは続いてナイフ類による処理が必須となる。まあこのくらいの考え方が一般的な2度切りと言える。

 

ここまでがニッパーの基本構造、原理と、一般的な2度切りのザックリとした解説であり、今回の本編はここまで。
今回は珍しく「プラモ制覇的本題」を奥の院に譲って、とりあえずの昼休みとする。

 

>>次ページ

さらにニッパーの力学を極めたい人は

次ページ「奥の院」へ!

1 2

関連情報

 

関連記事

上に戻る